目的と目標の違い──受験勉強を本当の意味で前に進めるために


はじめに:なぜ「目的と目標」を区別する必要があるのか?

受験勉強に取り組む中で、「目的」と「目標」を混同してしまう人は少なくありません。しかし、この2つは似て非なるものです。この違いを明確にすることは、モチベーションの質を高め、勉強のブレをなくすことに直結します。

この記事では、心理学や実際の受験生の行動パターンを踏まえながら、「目的と目標の違い」「それが勉強や進路選択にどう影響するのか」について解説します。


目的と目標の定義

目的とは?

「目的」とは、あなたが何のためにその行動をするのかという「存在の理由・意義」です。もっと噛み砕いて言えば、**その先に何を実現したいのか、どんな人生を送りたいのかという“Why(なぜ)”**です。

  • 例:
    • 「将来、医者になって人を救いたい」
    • 「自分の可能性を試してみたい」
    • 「家族を安心させたい」

こうした「目的」は、長期的で抽象度が高く、感情や価値観と強く結びついています。

目標とは?

一方「目標」とは、**その目的を実現するための具体的な行動のゴール=“What(何を)”**です。達成度を測れるように、具体的な数値や期限が含まれるのが一般的です。

  • 例:
    • 「3月までに英単語を2000語覚える」
    • 「共通テストで8割を取る」
    • 「模試で志望校A判定を取る」

つまり、「目的」が“なぜやるのか”であり、「目標」は“何をやるのか”。目的がコンパスで、目標が地図のようなものです。

目的があることで”情熱”が生まれ、目標があることで"前進"が生まれます。


目的がない目標は“折れる”

目的を持たずに目標だけを立てると、なぜうまくいかないのでしょうか?

ケーススタディ①:「とりあえずA大学を目指す」問題

「とりあえず偏差値が高いからA大学を目指す」といった受験生は、一見、やる気があるように見えます。しかし、途中で「なんでこんなに辛い思いしてるんだっけ?」と疑問を抱き、やる気を失うことが少なくありません。

このように目標だけ”で走り始めると、途中で迷子になるのです。

ケーススタディ②:合格してからの喪失感

また、「志望校に合格すること」がゴールになっている人は、合格した後にモチベーションを失ってしまいます。

目的を持たずに走ると、「合格=終わり」になってしまい、その先の人生をどう生きるかという視点を失ってしまいます。

これらの状態ではいつ燃え尽きてもおかしく無く、適応障害やうつ病などのリスクも高まります。


目標がない目的は“空回り”

一方で、「将来は人の役に立つ仕事をしたい」という“目的”だけを掲げていても、具体的な行動(目標)に落とし込めなければ空回りします。

「熱意はあるけど、何から手をつければいいかわからない」という状態です。

正しい順番:目的 → 目標

重要なのは、「目的を先に決めてから、目標を設定する」ことです。

  • ×:偏差値65以上の大学を目指す → なんで?
  • ◎:「社会の仕組みを変えるような仕事がしたい」→「そのために法律を学べるB大学を目指す」

目的が先にあれば、目標の軌道修正も自分でできるようになります。


良い目標の立て方-達成目標理論と動機の質-

心理学の世界では、「動機には質がある」と言われています。

達成目標理論:4つの目標タイプ

心理学者たちは、目標には以下の4つのタイプがあると分類しています。

タイプ特徴モチベーション源行動パターン感情
熟達接近理解・成長したい・知りたい知的好奇心・意味継続的な挑戦・復習ポジティブで安定
熟達回避未熟な自分を避けたい完璧主義・不安強迫的学習・自己否定的努力不安・緊張
遂行接近他者より上に立ちたい承認欲求表面的な成果志向不安定な自信
遂行回避他者に劣るのが怖い恥・恐怖挑戦回避・隠れる無気力・学習性無力感

この中で最も持続性が高く、精神的な安定をもたらすのが「熟達接近目標」です。

そして、熟達接近目標の背景には、“知りたいに最適化された目的”があることが多いのです。

さらに興味のある方は、以下の達成目標理論についてまとめた記事もご参照ください。

人気漫画『チ。―地球の運動について―』でみる達成目標理論のメカニズムと実践法

「勉強のやる気はある。でも、なぜか続かない」「目標は立てたのに、いつの間にかモチベーションが切れてしまう」 こうした悩みは、意志が弱いからでも、能力が低いからで…


自分の「目的」を見つけるワーク

「目的を見つけろ」と言われても、簡単ではありません。ここでは、自分の目的を探るための問いかけをいくつか紹介します。

ワーク1:時間が無限にあったら何をする?

  • 「もし大学受験も将来の就職も関係なかったら、自分は何を学びたいか?」
  • 「何をしている時に一番“自分らしい”と感じるか?」

ワーク2:怒りや違和感を感じるものは?

  • 「社会や学校に対して、納得できないと思うことは?」
  • 「それをどう変えたいと思うか?」

怒りや違和感の裏には、自分が大切にしている価値観=目的のヒントが隠れています。

ワーク3:なぜ受験するのかを5回問う

  • なぜその大学を目指すの? → なぜその分野を学びたいの? → なぜその仕事をしたいの?…

「なぜ?」を5回繰り返すことで、目的がより明確になります(トヨタ式の「5 Whys」)。


目的と目標がつながるとき、勉強は加速する

「目標」だけだと、数値に一喜一憂します。「目的」だけだと、行動にブレーキがかかります。この2つがつながったとき、人は本当の意味で“走り続ける”ことができるのです。

実例:ある受験生のケース

  • 目的:「海外で医療支援をしたい」
  • 目標:「今月中に英単語を500語覚える」「化学の基礎問題集を2周」

彼女にとって、英語も化学も「目的」と直結しているので、単なる義務ではなく、未来への投資と感じるようになったそうです。


目標がずれてきたときは、目的に立ち返る

模試の結果が悪かったり、思ったように勉強が進まなかったりすると、「このままで大丈夫だろうか」と不安になります。そんなときこそ「なぜ勉強しているのか?」という目的に立ち返ることで、目標を柔軟に修正できます。

目的が定まっていれば、途中で目標が変わってもブレません。


進路選びにも「目的→目標」の思考を

進路や学部選びでも同じです。

  • 「偏差値が高いから」ではなく、「この分野で社会にどんな影響を与えたいか」から考える。
  • 「就職が有利だから」ではなく、「自分はどんな社会課題に関心があるのか」から探る。

目的から逆算すれば、大学や学部の選び方が変わってくるはずです。


まとめ:目的があると、勉強は“生き方”になる

受験勉強は、単なる知識の詰め込みではありません。「どんな人生を生きたいか」を問い続ける、自己対話の時間でもあるのです。

  • 「目的」=人生の軸、モチベーションの源泉
  • 「目標」=行動の道しるべ、到達すべきチェックポイント

この2つがつながったとき、あなたの勉強は「やらされるもの」から「自分で選び取るもの」に変わります。