読解力の正体 現代文の勉強を挫折しないための"読解力の地図"

目次
はじめに. なぜ現代文が読めないのか
現代文が苦手だと感じている受験生はとても多いです。
「なんとなくは読めるけれど、選択肢で迷う」「本文の内容と選択肢のズレがわからない」「そもそも何を意識して読めばいいのかわからない」。
こうした悩みの背景には、現代文という教科に対する誤解があります。
現代文は「センス」や「感覚」で読むものではありません。論理を読み解く科目です。
現代文が読めない原因は、決して「頭が悪い」からでも「感覚が鈍い」からでもありません。
現代文特有の知識や論理を学んでくることが無かったため、その論理に慣れていない可能性の方が高いです。
もちろん、ディスレクシアなどの生まれながらの問題で、現代文が苦手な人も中にはいるでしょう。しかし、統計的にみればあなたがそうである可能性は低いはずで、過剰に自己評価が低いだけのパターンもあります。
また、生まれながらに読解が苦手な人であっても、全体像を把握することで対策の質を高めることはできます。
以下では、
- 現代文はセンスか
- 現代文はどのくらいで成績が向上するか
- ほぼすべての評論は問題解決 or 問題提起である
という特に押さえておいて欲しい3要素を最初にお伝えした上で、7つの現代文読解に必要な要素へと触れていきます。
現代文はセンスか
現代文は「センスだ」「生まれつきだ」という声をよく耳にします。
たしかに、現代文が得意な人は「そんなに特別なことはしていない」と言うことが多いです。
しかし、その「センス」とは何でしょうか。
本質的には、センスとは後天的に獲得された読解スキルです。
具体的には、
- 論理パターンを見抜く力
- 語彙・背景知識の豊富さ
- 文章全体の構造を俯瞰して捉える意識
といった複数のスキルの積み重ねが、「センス」として現れます。
現代文にはある程度「型」が存在します。
とくに評論文は、問題提起 → 展開 → 主張というある程度決まった論理構造を取ることが多いです。
接続詞(逆接・順接・補足など)や段落構成を意識的に追えば、この型は自然と見えてきます。
したがって、現代文でいうセンスは一つの知識にすぎません。
誰でも正しい方法で訓練すれば後天的に身につけられる能力なのです。
現代文はどのくらいで成績が向上するのか
現代文は「伸びるのに時間がかかる」と言われることが多いです。
しかし、それは正しくもあり、誤解でもあります。
現代文の成績向上には、何が苦手なのかを正確に把握することが第一歩です。
苦手な原因は、大きく3つに分けられます。
① 語彙・背景知識の不足
② 論理構造の読み取り不足
③ 筆者の意図・評価の読み違い
①の場合は、まず語彙と背景知識を地道に積み上げる必要があるため、成績の上昇は2〜3か月単位で緩やかに現れます。
②と③の場合は、接続詞や論理マーカーの読み取り訓練、設問分析の練習を数週間集中的に行うことで、1〜2か月で明確な伸びが見えてくることが多いです。
特に接続詞の読解精度が上がると、選択肢の絞り込みが劇的に正確になります。
この変化は比較的短期間(数週間〜1か月)で実感しやすいです。
つまり、現代文は「語彙の土台」を固めつつ「論理読み」の型を習得すれば、意外と短期間で大きな改善が可能な科目です。
逆に言えば、やみくもに問題演習だけを積んでも、成績は上がりにくいのです。
正しい方法と順序で進めることがカギになります。
ほぼすべての評論は問題解決 or 問題提起である
現代文の評論文が読めない理由のひとつに、「この文章は何の話をしているのか」が途中で見失われてしまうことがあります。
その原因は、評論文の基本構造を知らないことにあります。
実はほぼすべての評論文は、問題解決型か問題提起型のいずれかの枠組みで書かれているのです。
問題解決型
既に存在する問題をどう解決するかを論じる文章です。
「このままではこういう問題がある。だからこうした考え方/行動が必要だ」という流れをとります。

問題提起型
新しい問題意識を読者に提示すること自体が目的の文章です。
「これまではこう考えられていた。しかし実はこういう視点も必要だ」と論じ、必ずしも解決策までは提示しません。
この違いがわかると、評論文を読むときの「読む姿勢」が変わります。
- 問題解決型なら「何を問題とし、どう解決しようとしているのか」に注目する
- 問題提起型なら「筆者はどんな視点の転換を求めているのか」に注目する
評論文は決して「知識をひけらかすため」に書かれているわけではありません。
必ず何かしらの「問題意識」が核にあります。
それを意識して読むだけで、文章全体の見通しが一気に良くなります。
現代文を得意にしたければ、評論文を読むたびにまず自問してみましょう。
「これは問題解決型か?問題提起型か?」と。
その問いかけだけで、読解の質がぐっと変わってくるはずです。
基礎的な単語や文法の理解
語・文法の理解
語彙力(語の意味の理解)
語彙が貧弱だと、そもそも文章の意味が取れません。
単純に言葉を知っているか知らないかはもちろん重要ですが、特に重要なのは多義語の意味を理解することです。
例えば、「対象」という語は一見簡単な言葉に見えますが、文脈によって意味が微妙に変わります。語彙力が高い人ほどこの文脈による使い分けができます。
例1:物理的なもの・人物を指す場合
「この実験の対象は小学生だ。」
→ 調査や行動の相手として小学生を指している。ここでは具体的・現実に存在するものが対象。
例2:心理的な焦点を指す場合
「彼の怒りの対象は上司だった。」
→ 感情が向けられている先という意味になる。心理的な意識の向き先としての対象。
例3:抽象的な概念を指す場合
「倫理学の対象は人間の行動である。」
→ 研究・議論の中心となるテーマや範囲を意味している。物理的なものではなく、思考・認識の枠内にあるものとしての対象。
例4:対象化という抽象的操作を指す場合
「自然を対象化する。」
→ 自然そのものを、主観(観察する側)から切り離して、分析・操作可能な対象(客体)として捉える行為。
ここでは 「自然そのもの」ではなく、自然を意識的に「考察・操作の枠内に入れたもの」という意味での対象が成立している。
例:「風景を見る」→ 「風景を対象化して美術作品に落とし込む」というとき、ただ見るのではなく「何をどう切り取り、構図や意味を与えるか」という行為が入っている。
例5:対象外・対象商品など派生的な使い方
「このセールは対象外の商品もある。」
→ ある基準や条件の範囲に含まれる/含まれないものという意味合いで使われる。ここでは行政文書・広告文・ビジネス文章などで多用される。
仮に「対象」という語が「~~歳が対象」程度の意味理解しかないと、それ以外の意味であったときに文字は読めるのに、意味が分からないという事態が発生してしまいます。。
文法理解(文の構造を正しく捉える)
複雑な長文は正しい文法理解が無ければ崩壊して見えます。
例:「昨日見た映画が感動的だったという友人の話を聞いた」
主語は「私」、述語は「聞いた」。映画が感動的だったのではなく、友人がそう言ったのが事実。このズレに気づく力が問われます。
文のズレに気づくことができないと、勘違いや誤解を解消することはできません。
語法知識(正しい使い方、慣用表現の理解)
慣用句や正しい語法が理解できないと誤読の元に。
例:「一石二鳥」を文字通りに「石を2羽の鳥に当てる」と解釈しては困ります。比喩や常用表現の意味をストックしておきましょう。
音韻処理
デコーディング(文字を正しく読む)
デコーディング(decoding)とは何か?
- 文字 → 音への変換のプロセスです。
- つまり 「字面は読めるか」「音として再現できるか」 の段階の話です。
- 例: 「汽車」→「きしゃ」と読めるか
デコーディングがなぜ大事なのか
デコーディングができないと、文章を読む際に 文字→音→意味という自然な流れが作れず、
- 音読ではつっかえたり誤読したりする
- 黙読でも頭の中でうまく読みが組み立たたず、意味が入ってこない
ということが起こります。
これは 「読みの流暢さ」「正確さ」 に直結します。
ディスレクシアはデコーディングの問題
発達性ディスレクシア(developmental dyslexia)という障害は、この デコーディングのプロセスそのものに困難を抱えている場合が多いです。
- 文字は見えているが、正しく音に変換できない
- 読みに時間がかかる、スムーズに読めない
- 誤読が頻発する
といった特徴があります。
重要なのは、ディスレクシアは「知的能力が低い」のではない ということです。
理解力自体は高くても、デコーディングの部分だけが苦手な場合が多くあります。
したがって、ディスレクシアの生徒には 読解練習の前にデコーディング支援(音韻意識トレーニングや文字-音対応の強化)を行うことが大切です。
音韻意識(音のまとまりを意識する)
例えば「はかりしれない」は「は・かり・しれ・ない」で区切って読めますか?音のまとまりを意識すると、意味のまとまりも自然に把握できるようになります。
文章のつながりの理解
表層的理解
主語・述語・修飾語の関係把握
例:「彼女は笑顔で先生に挨拶した友人を見た」
主語:彼女/述語:見た。
「笑顔で挨拶した」のは「友人」であり「彼女」ではない。この構造を瞬時に把握できることが必要です。
文同士のつながり(接続詞、指示語の理解)
「しかし」「したがって」「このように」などの接続詞の論理的役割は必須知識です。指示語(これ、それ、そのような)も何を指すかを正確に特定しましょう。
接続詞の機能 | 主な接続詞 | 読解上のポイント・特徴 |
---|---|---|
順接(原因 → 結果) | だから、したがって、それゆえに、よって、そのため | 因果関係の明示/論証展開のサイン |
逆接(対立・予想外) | しかし、だが、けれども、とはいえ、にもかかわらず、ところが | 筆者の主張が出る前に頻出/精読ポイント |
並列・追加 | そして、また、その上、なお、しかも | 同レベル情報の列挙/段落整理に役立つ |
対比・選択 | 一方、反面、それに対して、逆に、あるいは | 対照構造/文章全体の構成把握に必須 |
補足・説明 | すなわち、つまり、言い換えれば、要するに、いわば | 筆者の意図・主張の要約や定義位置に多用/頻出出題領域 |
例示 | たとえば、具体的には、例として、一例を挙げると | 抽象→具体の展開/例が設問に絡みやすい |
転換・展開 | さて、ところで、次に、では | 話題転換・段落展開のサイン/構成の理解に重要 |
まとめ・結論 | 以上より、このように、したがって、結論として、要するに | 筆者の主張位置/本文の核心部になることが多い |
時制・視点の一致
文章の途中で視点が切り替わる例:物語中で「私は考えた。しかし、彼は何も言わなかった。」→ 1人称と3人称が混在。この切り替えに気づけることが重要です。
古文ではこの主語の省略が最難関トピックの1つとなるほどですが、現代文でも甘く見ることはできません。
気づかぬうちに
内容的理解
明示的な情報の正確な把握
問題文で「筆者が明言している内容は?」と問われた場合、「筆者の感想か事実か」を区別できる力が問われます。
事実と意見の区別
例:「株式会社あんぽんたんの昨年売上は前年比5%減だった。(事実)」「これは経営の失策だ。(意見)」
混同して選択肢を誤る受験生が非常に多い項目です。
そのため、選択肢式の問題では「株式会社あんぽんたんの経営は失策だったと世間に知れ渡っている」などの間違った選択肢が用意されるわけです。
この選択肢をみてもまさか自分が引っかかるわけない!と思ってしまいそうですが、以外と多くの人が引っかかってしまうのが現実です。
全体構造の理解
論理構造の把握
因果関係
大雑把に説明すると、「AだからBになった」という構造が因果関係です。
「AだからBになった」という構造に敏感になり、接続詞のみに頼らず、文脈全体で因果を掴むことが必要です。
例:「株式会社あんぽんたんの昨年売上は前年比5%減だった。(事実)」「これは経営の失策だ。(意見)」
「売上が5%減少したのは経営の失策によると本文は述べている。」という選択肢があった場合には、この選択肢は因果を取り違えた不正確な選択肢となります。
売上5%減の理由は、必ずしも「経営が失策した(A)から売上減(B)になった」という形では無いからです。他にも売上が下がった理由は考えられます。
対比関係
「一方で」「対して」といった比較的な構造を正確に理解しましょう。これは評論文で特に頻出です。
列挙
「まず」「次に」「さらに」といった列挙型の情報整理力も重要。選択肢で「○番目に述べられた事例は何か」を問われることがあります。
具体と抽象の関係
例えば、現代文において「現代社会における人間関係の希薄化」について語るという文章があったとしましょう。
このような抽象的な話題のあとには「LINEでのやりとりが増えた」という具体例が続くことが多いです。
この対応関係を意識して読めるかが大切です。
なぜなら、重要なことは抽象であった「現代社会における人間関係の希薄化」であり、他はあくまでも飾りに過ぎないからです。
現代文の文章において、筆者が必死に説明しようとすることは1つか2つです。
そして、その主張の根拠や分かりやすさのために、具体的でわかりやすい例を追加していくのです。
構成把握
段落構造の理解
段落冒頭は主題が述べられやすい。段落ごとに「この段落は何を言っているか」を意識しながら読む習慣を持ちましょう。
段落間の関係
段落Aが問題提起、段落Bが解決策提示、段落Cが結論という構成を読み取る練習を重ねると文章理解が飛躍的に向上します。
・全体構成(序論・本論・結論 など)の把握
特に論説文では「結論を先に出しているか」「じわじわ結論に向かっているか」を意識すると説得力ある読み方が可能になります。
隠されたメッセージの理解
暗示・含意の理解
暗黙の前提の読み取り
筆者が明言せず当然の前提としていること(常識や価値観)を読み取ることが求められます。
例:「家族は一緒に暮らすべきだという考え方も根強い。」
→ ここに「全員が一緒に暮らすべきとは限らない」という反対の前提が含まれている。
筆者の意図の推測
なぜこの順番で話題を出したのか?なぜ強調表現を使ったのか?意図を推測する訓練が必要です。
行間を読む
「Aは良かった。しかしBは残念だった。」→ 実はBの方に筆者のより強い評価が含まれている場合がある。この微妙なニュアンスを捉える力です。
特に小説においては、この力が読解を加速させることに繋がります。
注意点:隠されたメッセージは受験には不要!?
しかし、隠されたメッセージは必ず読み解ける必要はありません。むしろ、書いてないことを想像してしまうことで、読解ミスを誘発する要因にもなりえます。
受験問題作成者側も隠されたメッセージを読み取らせるような問題は基本的に出してこないでしょう。
なぜならば、そのような問題は誰もが辿り着くことができない悪問扱いされるからです。微妙な問題は出さないという判断を下すことが一般的でしょう。
逆に言うと、隠されたメッセージを読み取ってもあくまで理解の補足までとし、書かれているメッセージだけを読み取ることが、現代文読解には求められます。
文脈理解
文章全体のテーマ・トーン
悲観的、楽観的、冷静、挑発的など文章のトーンをつかむことが選択肢の吟味に直結します。
語の意味の文脈的解釈
「重い責任」「重い空気」など、同じ語でも文脈で意味が異なります。この変化に柔軟に対応しましょう。
比喩・象徴・ニュアンスの理解
例:「鋼のような意志」→ 物理的な鋼ではなく「揺るがない」という象徴的意味がある。こうした表現が理解できないと評論文や文学作品で苦戦します。
批判的な文章理解
評価・吟味
論拠の妥当性判断
「日本の若者は読書離れが進んでいる。だから日本経済は停滞している。」
→ これが本当に正しい因果関係なのか?飛躍していないか?を判断する力が問われます。
情報の信頼性評価
筆者が提示したデータの出典、調査方法に注意を払うことも受験では重要です。ネット情報が引用された場合は特に警戒が必要です。
筆者の立場・バイアスの検出
文章が意図的に特定の意見に誘導していないかを読み取る。政治・社会問題に関する評論文では頻出の観点です。
視点の相対化
他の視点との比較
文章Aが自由貿易賛成、文章Bが反対。この両方を読んだ場合に比較・整理できる力が求められます。
反論可能性の検討
筆者の主張に対して「こういう反論もあり得る」と自分の頭で考える練習を普段からしておくと、論理的思考力が高まります。
選択肢問題においても、文章には直接記載されていない反論可能性を答えさせる問題が出題されることがあります。
意味の理解
意味の再構成
自身の背景知識との統合
新しく読んだ知識を自分の世界観や他教科知識とつなげられる人は理解が深まります。
例:「進化論」を読んだ後に生物の授業内容と接続することやその逆のようなパターン。
新たな洞察の形成
文章が直接言っていないが自分なりの解釈や気づきを導き出せることが、深い読解力の証明です。
その文章を解くという観点では、新たな洞察は不要でしょう。しかし、次に同ジャンルの問題や社会に出てから直面する問題の解決で役立つ知識となるでしょう。
メタ認知
認知的態度
精読する意欲
「ざっと読む」では得点は伸びません。難文に出会っても精読する意欲を持つことが第一歩です。
不明点を明確化する姿勢
「ここは分からない」と気づき、放置せず確認する姿勢が、理解力を高めます。
粘り強さ
難解な文章も諦めずに読み切る意志が必要です。この力は訓練次第で確実に伸びます。
この3点、急に精神論か?と思った方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これが馬鹿になりません。
人間の読解力はワーキングメモリーという脳の機能によって左右されるところがあり、日ごろからこのワーキングメモリーを鍛えることが重要となってきます。
認知的制御
自分の理解状況のモニタリング
「今自分はこの段落の主旨を把握しているか?」を常にチェックする癖をつけましょう。
現代文が苦手な人のあるあるは、わかってないがそのことに気づかず読み進めてしまうことです。
理解不足時の修正行動
理解が浅いと感じた段落を再読する、図を書いて整理するなどの具体的な修正行動ができる人は読解力が伸びやすいです。
読解方略の選択と調整
目的に応じて「精読」「スキミング(ざっと読む)」を使い分ける力も読解の質を左右します。例えば試験時間に応じて方略を変えることはとても有効です。
受験生は現代文を読む際に、一言一句完璧に文章を読もうとする必要はありません。恐らく、そういった読み方は脳の負荷を高めてしまうでしょう。
まとめ
読解力とは単なる「文章を読む力」ではありません。基礎的な語彙力や文法力から、深層的な意図理解、さらに批判的・統合的な活用力まで幅広い力の集合体です。
一朝一夕に身につくものではありませんが、意識して練習すれば確実に伸びる力でもあります。
ぜひ今日からこの7つの層を意識して、段階的に自分の読解力を磨いていきましょう。