「自分に合った学び方」が見つかる─成人学習理論(アンドラゴジー)から学ぶ勉強法

はじめに:「なんとなく」勉強していませんか?

「ちゃんとやってるのに、なぜか伸びない」
「やる気がある日とない日がバラバラ」
「参考書はやってるけど、頭に入らない気がする…」

そんな悩みを抱えている受験生も多いのではないでしょうか。

努力が空回りしているように感じるとき、そこには「学び方のズレ」があるかもしれません。
今回は、社会人向けの学習法として開発された「成人学習理論(アンドラゴジー)」をもとに、受験生にも通じる“本質的な学び方”のコツを解説します。


成人学習理論(アンドラゴジー)とは?

成人学習理論(Andragogy)は、教育学者マルコム・ノウルズ(Malcolm Knowles)によって提唱された理論です。

子どもが学ぶ「教育学(ペダゴジー)」と区別され、大人がより主体的・実践的に学ぶための原理として設計されています。ノウルズは、成人学習には以下の6つの特徴があると述べています。

1. 自己概念の変化:依存から自立へ

大人は「自分で考えて学びたい」という欲求を強く持ちます。与えられた指示より、自ら選んだ内容にこそ集中力が高まるのです。

→受験生にも通じる:
「勉強しなさい」と言われるとやる気が下がるのは、自然な心理。自分で目標や方法を決めることが、やる気と集中を引き出します。

2. 経験の活用

大人の学習は、「すでに持っている経験」をベースに進めることで深まりやすくなります。

→受験生への応用:
これまで解いた問題、失敗、成功体験を活かして、「自分はこういうときに理解が深まる」「このやり方は合っていた」などの“学習戦略”を言語化しよう。

3. 学ぶ準備性

大人は「自分にとって必要だ」と思ったときに初めて、本気で学ぼうとします。

→受験生への応用:
「この単元がなぜ必要か」「将来どこに役立つか」を意識しながら学ぶことで、意味づけが強化され、記憶定着も高まります。

4. 学習への志向性:問題解決への志向

大人は「試験に出るから」よりも、「目の前の課題を解決したい」という動機で学ぶことが多いです。

→受験生にも有効:
「なぜ間違えたか」「どうすれば解けたか」など、自分なりの課題に向き合って学ぶことで、知識が“使える形”に整理されていきます。

5. 学習の動機づけ:内発的である

大人の学習は、「給料が上がる」「怒られないため」といった外発的な動機より、「できるようになりたい」「成長したい」といった内発的動機によって動きます。

→受験生への応用:
親や先生に褒められるためでなく、「自分の理想の将来に近づくために学ぶ」視点を持つことで、持続的なモチベーションが生まれます。

「やる気が続く受験勉強」の秘密──内発的動機付けという心理学の力

目次1 はじめに:「やる気」が湧かない理由、知っていますか?2 動機付けとは?──外発的と内発的のちがい3 多くの人は「外発的動機付け」でしか動けない4 内発的動機付け…

6. 学習の設計への関与

大人は「どう学ぶか」にも意見を持ち、自分の方法をカスタマイズしたいと思う傾向があります。

→受験生への提案:
「この科目はこうやると効率がいい」「朝は暗記、夜は問題演習」といった、自分なりの“学習設計”をつくっていこう。


受験生が成人学習理論を活かす方法

成人学習理論は、本来は社会人向けですが、高校生や大学受験生がこれを取り入れることで「一段上の学び方」が実現できます。

1. 自己主導の学習計画を立てる

「やらされている勉強」から、「自分で選んだ学び」へ。
具体的には:

  • 目標を「点数」ではなく「理解」で立てる
  • 1週間単位の計画を自分で設計する
  • 朝のうちに「今日の課題」を自分で設定する

これにより、外発的な圧力ではなく、自己決定による集中力と継続力が育ちます。

「やらされる勉強」から「自分の学び」へ──自己決定で受験を根本から変える

目次1 はじめに:なぜ「やる気」が続かないのか?2 自己決定理論とは?──人が本当に動くとき2.1 外発的動機づけ(Extrinsic Motivation)2.2 内発的動機づけ(Intrinsic M…

2. 振り返りで“経験学習”を回す

  • 「今日の学習でよかったこと/改善点は?」
  • 「なぜ解けなかったのか?」
  • 「このやり方は再現できるか?」

このように、1日5分でも「振り返り」を入れることで、単なる“作業”が“学習”に変わります。

3. 意味づけを加えて暗記する

「この公式、実生活のどこで役立つ?」
「この単語、なぜこんなスペルなのか?」

丸暗記ではなく、“納得のいく説明”を自分で探すことで、記憶に強く残るようになります。

目的と目標の違い──受験勉強を本当の意味で前に進めるために

目次1 はじめに:なぜ「目的と目標」を区別する必要があるのか?2 目的と目標の定義2.1 目的とは?2.2 目標とは?3 目的がない目標は“折れる”3.1 ケーススタディ①:「とり…

4. 問題解決型の勉強法に変える

  • 間違い直しは「どうすれば正解にたどり着けたか?」を考える
  • 過去問演習では「この問題はどこで判断が分かれたか」を整理する

ただの反復ではなく、課題解決としての学びにすると理解の深さが変わります。

問題解決とは何か?──差をつける課題特定の技術とChatGPT活用方法

目次0.1 はじめに0.2 問題解決とは何か?:定義と必要性0.2.1 問題解決の定義0.2.2 なぜ必要か?0.3 問題の構造を理解する:問題とは何か?0.3.1 問題とは「ギャップの存…


受験勉強は「大人の学び」でもある

「高校生はまだ子ども」と言われがちですが、受験期は明らかに「自分の未来を自分で選ぶ」フェーズです。つまり、学び方の本質は大人に近づいているのです。

だからこそ、成人学習理論は受験生にとっても有効。
誰かに教えられたやり方ではなく、「自分で考え、工夫し、意味づけする」学び方を身につけることが、最強の武器になるのです。


おわりに:あなたの学び方は“あなたのため”に設計されているか?

努力は、正しい方向に向けられたときに最大の価値を生みます。

今の勉強法がなんとなくしっくり来ないときは、「もっと自分に合った学び方があるかもしれない」と見直してみてください。

成人学習理論は、そのヒントを与えてくれます。