なぜ暗記してもすぐ忘れるのか? 定着を妨げる心理的メカニズムから暗記のやり方を考える
目次
はじめに:なぜ「覚えたのに忘れる」現象が起きるのか
「昨日あんなに覚えたのに、もう忘れている……」
テスト勉強のたびに、そんな経験をしたことがある人は多いでしょう。
努力して暗記しても記憶が抜け落ちると、自分の能力に問題があるように感じてしまいます。
しかし実際には、「忘れる」こと自体が人間の記憶システムに組み込まれた“正常な機能”なのです。
記憶とは、情報を単に「入れる」だけではなく、「保持」し、「検索」し、「再構成」していく複雑なプロセス。
このプロセスのどこかで歪みやズレが生じると、記憶はうまく定着しません。
本記事では、記憶の定着を妨げる心理的メカニズムを中心に、
人が「なぜ忘れるのか」、そして「どうすれば忘れにくくできるのか」を解説します。
記憶の3段階モデル
心理学では、記憶は次の3段階に分けて考えられます。
- 符号化(Encoding):情報を頭に取り込む段階
- 貯蔵(Storage):記憶として保持する段階
- 検索(Retrieval):必要なときに思い出す段階
たとえば英単語を覚えるとき、
「意味を理解する」=符号化、
「繰り返し見返す」=貯蔵、
「テストで思い出す」=検索、
というように、すべてが連動してはじめて「記憶した」と言えるのです。
このモデルは心理学者アトキンソンとシフリンによる「多重貯蔵モデル」(1968)を基礎にしています。
単なる暗記ではなく、符号化・保持・検索の質を高めることが、記憶を強化する鍵です。
その後の研究では、この単純な直列モデルを発展させた理論も多く登場しました。
たとえばクレイクとロックハートの「処理水準理論(Levels of Processing Theory)」では、
記憶の持続性は「どの程度深く処理されたか」に依存するとされます。
つまり、単なる表層的な繰り返し(たとえば「声に出して読むだけ」)ではなく、
意味的・感情的に結びつけて理解した情報ほど、長期記憶に残りやすいという考え方です。
スキーマ理論と再構築の記憶
ここで重要になるのが、「意味的理解」を支えるスキーマ理論(Schema Theory)です(Bartlett, 1932)。
スキーマとは、経験や知識を整理する「認知の枠組み」のこと。
私たちは新しい情報をゼロから理解するのではなく、すでに持っているスキーマに“結びつけながら”理解します。
たとえば「犬」という言葉を聞くと、形・鳴き声・性格などが瞬時に思い浮かぶ。
これは「犬スキーマ」が脳内に形成されているためです。
スキーマ理論が示すのは、記憶とは情報の積み重ねではなく、再構築のプロセスであるということ。
学ぶたびにスキーマは修正・拡張され、意味のネットワークが強化されていきます。
つまり「覚える」とは、既存の知識と新しい情報を接続し、スキーマを更新する行為なのです。
このスキーマ更新が深いほど、記憶は長期的に保持され、思い出しやすくなります。
そのため、復習時には「どんな知識とつながるか」を意識することが効果的です。
たとえば歴史の事件を年号だけでなく、因果関係や社会背景と関連づけて整理することで、
単なる暗記が「意味の理解」へと変わります。
また、トルヴィングのエピソード記憶・意味記憶・手続き記憶の三分類も重要です。
・エピソード記憶:体験とともに記憶される具体的な出来事
・意味記憶:概念や知識として整理された情報
・手続き記憶:技能や動作として体に刻まれる記憶
このように、記憶には種類があり、それぞれ異なる脳領域や再生メカニズムをもっています。
そのため、学習内容の性質に応じてどの記憶システムを活用するかを意識することが、効率的な暗記の第一歩です。
たとえば歴史の年号なら意味記憶中心、化学実験の操作なら手続き記憶中心、といった具合に、
学ぶ対象と脳のメカニズムを対応づけることで、学習効果は大きく変わります。
忘却を引き起こす心理的メカニズム
人が「覚えたのに忘れてしまう」背景には、いくつもの心理的要因が関わっています。
主な4つのメカニズムを整理してみましょう。
符号化の浅さ ― 「理解しない暗記」は長続きしない
情報を「意味」ではなく「形」で覚えると、短期記憶にしか残りません。
たとえば「apple=リンゴ」とだけ覚えても、イメージや文脈が結びついていないため、すぐに消えます。
意味づけ(semantic encoding)が弱いと、記憶はすぐに蒸発します。
干渉(Interference) ― 似た情報が上書きしてしまう
たとえば英単語「accept」と「except」を同時に覚えると、どちらがどっちだったか混乱します。
これは「干渉」と呼ばれ、記憶が似た情報に邪魔される現象です。
特に短時間で大量暗記を行うと、干渉が増えるため、復習間隔を空けることが重要です。
検索失敗 ― 思い出す“手がかり”がない
情報は頭の中に残っていても、うまく検索できないことがあります。
たとえば「顔は覚えているけど名前が出てこない」状態。
これは検索キュー(retrieval cue)が不足しているからです。
関連づけやマインドマップなどを使い、思い出す“道筋”を作ることが有効です。
感情ストレス ― 緊張で検索がブロックされる
テスト本番やプレッシャーの場面では、緊張によってワーキングメモリ(作業記憶)が圧迫されます。
結果、検索プロセスが妨げられ、思い出せなくなる。
つまり「覚えていない」のではなく、「引き出せない」だけのケースも多いのです。
環境があなたの物忘れを促進する
ここで重要なのは、記憶が“脳のどこで処理されているか”という視点です。
短期的な保持は前頭前野で、長期的な保存は海馬や大脳皮質で行われます。
特に海馬は、新しい情報を一時的に整理し、睡眠中に長期記憶へと統合する「中継地点」のような役割を担っています。
したがって、睡眠不足やストレスで海馬の働きが鈍ると、どれだけ努力しても記憶が定着しにくくなります。
さらに、環境も記憶形成に影響します。
同じ場所・同じ音楽・同じ匂いの中で学習すると、脳はそれらを“手がかり”として記憶を引き出しやすくなります。
これを「文脈依存記憶(context-dependent memory)」と呼びます。
たとえば、試験勉強をカフェでしていた人が、本番で同じ香りを嗅いだ瞬間に内容を思い出す――そんな現象もこの原理によるものです。
つまり、「覚える力」だけでなく、「環境や感情をセットで記憶する力」も活用することが、
“忘れにくい学び方”の第一歩といえるでしょう。
忘れにくい学習法の原理とAI活用
記憶を定着させるには、「忘れる仕組み」に逆らうのではなく、活かすことが大切です。
そのための代表的な方法が、間隔反復(Spaced Repetition)です。
忘却曲線ではなく「記憶再構築曲線」を意識する
エビングハウスの忘却曲線はよく知られていますが、実際には「再構築」こそが本質です。
人は復習のたびに記憶を再構成し、より強固にしていきます。
1日後、3日後、1週間後といった間隔で復習を繰り返すと、検索経路が安定していきます。
「検索練習(Retrieval Practice)」を取り入れる
ノートを見ずに思い出す、問題を自作して解くなどの行為は、検索力を鍛えます。
単なる再読よりもはるかに効果が高く、「思い出すこと」自体が学習なのです。
復習は「再入力」ではなく「再構築」
多くの人は「復習=もう一度読むこと」と考えがちですが、実際には脳内では「再構築」が起こっています。
新しい情報を追加するたびに、スキーマが修正され、記憶のネットワークが再編されるのです。
1回目の学習で作ったスキーマを、2回目以降の復習で再構成していく。
この「意味づけ→再構築→検索」のループが、長期記憶の安定を生みます。
復習とは単なる確認ではなく、理解を“進化させるプロセス”です。
同じ教材を見返しても、前回より深く理解できるのは、脳がスキーマを更新しているからです。
したがって、効率的な復習とは「思い出すために読む」ではなく、「考え直すために使う」こと。
AIツールを用いた学習計画も、こうした“再構築型復習”のリズムを意識することで、真価を発揮します。
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睡眠と感情のコントロール
記憶は睡眠中に統合されます。睡眠不足は符号化も保持も妨げるため、勉強より睡眠を優先すべき日もあります。
また、ポジティブな感情状態での学習は、アミグダラ(扁桃体)を介して記憶を強化します。
「やる気の出る環境づくり」も立派な暗記法なのです。
よくある誤解:反復=単調、は誤解
多くの人は「反復=退屈」「理解より作業」と感じがちです。
しかし実際には、反復こそが理解の深化を支える重要な過程です。
たとえば数学の公式を「意味で理解する」には、一度覚えたあとに異なる文脈で使うことが必要。
この「使う→修正→再構成」のサイクルが、真の記憶定着を生みます。
つまり、「理解してから覚える」ではなく、
「覚えてから理解し直す」プロセスが、人間の脳には自然なのです。
まとめ・展望:忘れる脳に、寄り添う学びを
- 記憶は「符号化・保持・検索」の3段階で成り立つ
- 忘れるのは「壊れる」ではなく「再構成が途切れる」から
- 忘却を恐れず、間隔反復と検索練習で“思い出す力”を育てる
AI時代の学びでは、「覚える」よりも「思い出せる構造」をどう設計するかが鍵です。
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