「頑張っても伸びない」原因は“脳の使いすぎ”?─認知負荷理論で変わる受験勉強

はじめに:「努力してるのに結果が出ない」その正体とは?

「しっかり予習・復習してるのに成績が上がらない…」
「問題集をたくさん解いたのに、模試でミスを連発した…」

そんな経験を持つ受験生は少なくありません。
あなたの努力が無駄だったわけではありません。しかし、その勉強のやり方に、「脳の処理能力を超えてしまう」落とし穴が潜んでいたとしたら?

今回はその正体を明らかにする心理学理論――**認知負荷理論(Cognitive Load Theory)**をご紹介します。
これは、「人の脳はどれだけの情報を一度に処理できるのか?」という問いから始まる、非常に実用的な学習理論です。

この理論を知れば、次のような変化が生まれます。

  • 効率的に記憶に残る勉強ができるようになる
  • 「わかったつもり」が減る
  • 問題演習での“意味不明なミス”が減る
  • 最短での成績向上が狙える

それでは早速、受験に活かせる形で解説していきます。


認知負荷理論とは何か?

「脳の処理キャパ」は無限ではない

認知負荷理論(CLT)は、オーストラリアの教育心理学者ジョン・スウェラーによって提唱された学習理論です。
その核にあるのは、とてもシンプルな前提:

「人間のワーキングメモリ(作業記憶)は処理できる情報量に限界がある」

つまり、人は一度に大量の情報を処理すると、パンクして学習効率が下がるということ。

例えば、難しい問題を解こうとするとき、

  • 公式の使い方
  • 問題文の読解
  • 自分の解答戦略の構築
  • 計算処理
  • 過去の知識との照合

など、脳の中ではたくさんの処理が同時並行で走っています。
これが**「認知負荷」**と呼ばれるものです。

そしてこの負荷には以下の3種類があります。


認知負荷の3分類

負荷の種類意味対処の方向性
①固有負荷(Intrinsic Load)教材や課題そのものが持つ難易度二次関数の応用問題、長文読解など適切なステップ設計で分解
②外的負荷(Extraneous Load)教材のわかりにくさや形式に由来する負荷ゴチャゴチャしたノート、説明不足な解説削減・明確化
③有効負荷(Germane Load)理解やスキーマ形成に使われる負荷例題からの構造理解、問題パターンの抽出意図的に高める

この3つを区別することで、「どこで脳が疲れてしまっているのか」「何を減らすべきか」が見えてきます。


「脳のムダ遣い」をやめる勉強術

ポイントは、「無駄な外的負荷のカット」

まず第一に対策すべきは、「外的負荷」の削減です。
これは、学習内容以外のところで脳が疲れてしまっている状態です。

たとえば:

  • 先生の板書が読みづらい
  • 解説が抽象的すぎる
  • 参考書の構成がバラバラ
  • 自分のノートが汚くて見返しにくい

こういった要因が、学習内容とは無関係に脳の容量を消耗させているのです。
これを改善するだけでも、驚くほど理解度は変わります。

対策例

  • 教科ごとに**「型」が統一されたノート形式**を使う(例:問題→考えたプロセス→結論→間違いメモ)
  • 説明がわかりづらい参考書は早めに乗り換える
  • 解説動画などを**“わかりやすさ基準”で厳選**する
  • 配色・レイアウトの整理(過度な色使いは逆効果)

「固有負荷」は分解できる

次に、「固有負荷」の扱いです。これは、内容の本質的な難しさを指します。
英語の構文が難しい、日本史の因果関係が複雑…など、これは学ぶべき“中身”そのものです。

ここで重要なのは、「いきなり高負荷を与えない」ということ。

対策例

  • 問題を小さなスキルに分解して段階的に練習
  • 「わからない」の原因を探って前提知識に戻る
  • 同じパターンを複数回使い、スキーマ化(ひな形化)

「有効負荷」を高めてこそ、学習になる

最後に、「有効負荷」の活用です。

これは、知識を整理し、つなげ、応用するために使う“良い負荷”です。

ここをかけないと、**「覚えたけど使えない」**知識になってしまいます。

対策例

  • 学んだ内容を自分の言葉で説明してみる
  • 複数の問題を比較しながら共通点を見つける
  • 間違えた問題のパターンや原因を分析して記録する
  • 「この問題は何を問うているのか?」を毎回考える癖をつける

受験勉強における認知負荷の「失敗例」と「改善例」

ケース1:一問一答を1000個覚えようとして失敗

問題点:短期記憶に頼り、固有負荷が高すぎる状態に。さらに、意味が結びついておらず有効負荷がかからない。

改善

  • 一問一答→マインドマップ形式に再構成
  • 「なぜ?」を問う演習に切り替え、スキーマを作る

ケース2:難しい数学問題を解説も見ずに解こうとする

問題点:固有負荷が高すぎ、外的負荷(不明瞭な記述)にも苦しむ。結果、思考放棄や暗記に走ってしまう。

改善

  • まず例題でステップごとの理解を作る
  • その後に問題のバリエーション練習
  • 解法パターンを**「型」として分類**

実践アドバイス──「認知負荷を最適化する」5つの原則

原則内容具体例
① 情報を一度に詰め込みすぎないワーキングメモリの容量を超えないように「1時間に新しい公式は1つ」に制限
② マルチモーダルを活用絵+言葉など、視覚・聴覚を併用数学の説明を音声+図で学ぶ
③ 書いて考える外在化して脳の負担を減らす問題の条件を図や表に整理
④ 先に全体像→細部スキーマを先に持つ「章の要約→詳細読解→演習」の順
⑤ 使って学ぶ知識は使ってこそ定着小テスト・説明・演習などで反復

「勉強は脳の整理整頓」だと知る

最後に、認知負荷理論が教えてくれる最大の学びはこうです。

「勉強ができる人=脳の整理整頓がうまい人」

勉強とは、ただの努力量勝負ではなく、脳内の情報処理をいかにスムーズにできるかの勝負でもあります。

整理されたノート
適切に選ばれた教材
段階的に構成された学習
無駄を削ぎ落とした復習法

こうした工夫すべてが、「認知負荷を最適化する」ことに貢献しています。