エビングハウスの忘却曲線とはー間違って広まる復習の重要性


はじめに

「1日後には74%忘れる!」「復習しないとすべてが水の泡!」
──こうしたキャッチコピーを、塾のチラシやSNSで見たことはありませんか?

この主張の根拠とされているのがエビングハウスの忘却曲線です。
確かに復習は大切ですが、実はこの「忘却曲線」、そのまま鵜呑みにするのは危険です。

この記事では、「忘却曲線」の正しい理解と、今の受験勉強にどう賢く活かすべきかを解説します。


エビングハウスの忘却曲線とは?

まずは簡単に歴史を振り返りましょう。

ヘルマン・エビングハウスは19世紀のドイツの心理学者。
1885年、彼は「記憶が時間とともにどう減衰するか」を研究しました。

実験の内容

  • 覚えたもの意味のない文字列(無意味綴り)
    例:XQJ、PLTなど。意味や文脈の助けが一切ないもの。
  • 実験者エビングハウス本人のみ(N=1)
    → サンプルがたった1人。
  • 測定したもの思い出すのにかかる時間の短縮率
    例:最初に10分かかったものが再学習時に5分で済んだ → 50%短縮。
    → よく誤解される「何%覚えていた」ではない。

なぜ有名になったのか?

  • 最初の体系的な記憶研究だったため、学術的に重要な歴史的成果。
  • グラフが視覚的にインパクトがあり、教育業界で広まった。
  • 近年はマーケティングの文脈でも頻繁に引用されるようになった。

忘却曲線の限界と誤解

この実験は心理学の出発点としては偉大ですが、現代の受験勉強にはそのまま適用できません

覚える内容が異なる

受験勉強では意味のある知識(歴史の因果関係、公式の意味、英単語の用例など)を覚えます。
意味のネットワークを持つ知識は、無意味綴りとは忘却のパターンが異なることが現代の研究で示されています。

実験設計が特殊

  • サンプル1人 → 個人差を反映していない
  • 人工的な状況 → 試験や問題解決のような実用的な場面とは違う

学びの質に与える影響が違う

  • 文脈のある知識は思い出す時に強化される
  • 意味づけが行われていれば、忘却はもっとゆるやか

つまり「1日後に74%忘れる」などの断定的な数字は、誇張されたものだと言えます。

誇張的なマーケティングの問題

  • 塾や教材の販促で「今すぐ復習を!」と煽るために使われがち。
  • 学びの質の向上より「恐怖訴求」に使われる例が多い。

受験生としては、こうした情報は批判的に受け止める姿勢が大切です。


復習は本当に必要なのか?科学的根拠

ここまで見ると「じゃあ復習はいらないの?」と思うかもしれません。
答えはNo。復習は非常に重要です。
ただし、その根拠はもっと現代的な心理学研究から来ています。

想起練習 (Retrieval Practice)

  • 「思い出そうとする行為」自体が記憶を強化する
  • 例:問題集を解き直す、白紙に書き出す → 記憶の神経回路が強化される。
  • 読むだけの復習より効果が大きい。

間隔反復(Spaced Repetition)

  • 復習の間隔を空けると記憶が定着しやすい
  • 例:1日後 → 3日後 → 1週間後 → 2週間後 → 1ヶ月後
  • 脳に「これは重要な情報だ」と認識させる効果がある。

意味づけの重要性

  • 意味を理解して覚えた知識は忘れにくい。
  • 丸暗記よりも「なぜそうなるのか」を意識する方が効果的。

忘却の質と復習の質の関係

  • 忘却は避けられないが、質の高い復習で記憶の質を高められる
  • 「単に量をこなす」のではなく、「意味理解+想起練習+間隔反復」が鍵。

受験勉強にどう活かす?

では、受験勉強においてはどう活用すればいいのでしょうか?
ここからは実践的なアドバイスです。

「忘却曲線」より賢い復習戦略

  • 忘却曲線のグラフに縛られず、自分の学び方を最適化する。
  • 重要なのは「いかにうまく思い出す機会を作るか」。

オススメの復習間隔例

時間経過復習のタイミング例
学習直後その日のうちに確認
翌日1回目の復習
3〜4日後2回目の復習
1週間後3回目の復習
2週間後4回目の復習
1ヶ月後5回目の復習

間隔を徐々に伸ばすことで記憶が長期化する。

復習時のコツ

・読み返すだけでなく 自分でテストする
白紙にまとめ直す
説明できるレベルまで思い出す

ライトナーシステムの活用

  • よく使われるカードボックス方式の復習システム。
  • 正解したカードは復習間隔を延ばし、間違えたカードは早く復習する。
  • 間隔反復の理論に合致した実践法。

よくある復習の落とし穴

  • 「エビングハウスが74%って言ってたから…」と焦って詰め込み復習をする
    → 質の低い復習では記憶が定着しにくい。
  • 間隔を詰めすぎる → 効率が悪化。
  • 読み返しだけで満足する → 想起効果が働かない。

まとめ

  • エビングハウスの忘却曲線は、あくまで心理学史上のひとつの実験
  • 現代の記憶研究は「意味づけ」「想起練習」「間隔反復」が重要であることを示している。
  • 復習は量より質。
  • 煽りマーケティングに惑わされず、自分に合った賢い復習法を作ろう。

最後にひとこと。
エビングハウスの忘却曲線は、復習の必要性を意識する「きっかけ」にはなりますが、それが「正しい復習法そのもの」ではありません。
ぜひ、科学的な知見に基づいた賢い学び方を身につけて、受験を攻略していきましょう!