経験を“本物の学力”に変える─受験に効く経験学習理論の活かし方

はじめに:「やっているのに伸びない」原因とは?

「毎日勉強しているのに、なかなか点数が伸びない」
「模試で同じミスを何度も繰り返してしまう…」

そんな悩みを抱える受験生は少なくありません。努力しているのに結果が出ない。
この“空回り”には、ある共通の背景があります。

それは、「経験を学びに変える回路が動いていない」ということ。

つまり、“やった”だけで終わってしまい、そこから何を学び取るかのプロセスが弱いのです。

この問題を解決してくれるのが、アメリカの教育学者デービッド・コルブが提唱した**経験学習理論(Experiential Learning Theory)**です。


経験学習理論とは?──人は経験からしか学べない

コルブはこう言います。

「学習とは、経験を変化させながら、それを理解し、次に活かすプロセスである」

つまり、学びは“経験→内省→理解→行動”というサイクルで初めて成立するということです。

コルブの経験学習サイクル:4つのステップ

ステップ説明受験勉強での例
① 具体的経験(Concrete Experience)問題を解いた/模試を受けたなど「英語の長文問題で点を落とした」
② 省察的観察(Reflective Observation)どこでつまずいたか、どう感じたかを振り返る「時間配分に失敗した」「主語を読み飛ばした」
③ 抽象的概念化(Abstract Conceptualization)自分なりの法則や気づきを導く「焦ると設問文の先読みを飛ばしがち」
④ 能動的実験(Active Experimentation)次の場面で実際に試してみる「次回は文章に線を引きながら読む」

この4ステップを高速で回すことが、成績向上の鍵になります。


各ステップを深掘り:受験生がやるべき具体策

具体的経験:やって終わりにしない

模試・演習・授業などは、すべて「経験」です。

しかし「やった」という事実だけでは、成績にはつながりません。大切なのは、「この経験をどう扱うか」です。

実践ヒント

  • 解いた問題に「なぜその選択肢を選んだか」を記録する
  • 解けた問題も、「なぜ正解できたか」を振り返る
  • 「うまくいった/いかなかった経験」を“学習の材料”として扱う

省察的観察:なぜそうなったかを言葉にする

「なぜ失敗したのか」「どうすれば避けられたか」を考えることが、“気づき”を生み出します。

ここが、ただの“問題演習”を“学習”へと変える分岐点です。

実践ヒント

  • 「気づきノート」を作り、問題ごとに自分の思考過程を記録
  • ミスのパターンを分類(計算ミス/読み飛ばし/焦りなど)
  • 解説を読む前に「自分なりの理由」を考える癖をつける

抽象的概念化:気づきを“再現可能な知識”へ

このステップが、知識の“構造化”=スキーマ化にあたります。

ここで、スキーマ理論が関わってきます。


補足:スキーマ理論との接続

スキーマ理論とは、「脳の中には経験を整理・構造化する“枠組み(スキーマ)”がある」という考え方です。

経験学習の「抽象的概念化」の段階では、以下のような知識のフレーム=スキーマが作られます。

例)

  • 「現代文では“逆接の接続詞”を見落とすと失点しやすい」
  • 「確率問題は“場合の数”と“全体の数”を切り分けて考える」

こうして、経験は「再現性のある知識」として脳内に蓄積され、次回の学習やテストで使える武器になります。

「勉強したのに思い出せない」の正体──スキーマ理論で脳の使い方を変えよう

目次1 はじめに:なぜ「勉強したのに忘れる」のか?2 スキーマ理論とは?──脳の中の「知識の地図」3 勉強にもスキーマがある──なぜ「背景知識」が記憶を助けるのか?4 ス…


能動的実験:試してこそ学びは完了する

最後に重要なのが、「じゃあ次はどうするか?」という行動のデザイン。

ここを飛ばしてしまうと、せっかくの学びも“知識止まり”になってしまいます。

実践ヒント

  • 次回の模試では「必ず接続詞に◯をつけながら読む」など、小さな工夫を1つ入れる
  • 結果が出なければ、またサイクルの最初に戻って原因を探る

「点数が伸びる人」は、経験を“資産”にしている

受験生の中で最も成果が出るのは、「たくさんやった人」ではなく、
やったことを、丁寧に学びに変えた人」です。

毎日の勉強を“体験”で終わらせず、“学び”に変えていける人ほど、伸びるスピードが加速します。


習慣化のためのツール:「経験学習ノート」のすすめ

フォーマット例(1日1ページ)

項目内容記入例
今日の経験数学の過去問:ミスが3問
なぜそうなった?ケアレスミス/図を描かなかった
気づいたこと焦ると図を描くのを飛ばす傾向あり
次回やること最初の1分で「図を描く時間」を取る

まとめ:あなたの経験は、何にも代えがたい「教材」

経験学習理論は、あなたが今すでに持っている“材料”を、最高の学びに変えてくれる理論です。

  • 模試で失敗した
  • 授業でわからなかった
  • 自習がうまくいかなかった

これらはすべて「学びの種」です。
経験を活かせる人が、受験に勝ちます。