「やらされる勉強」から「自分の学び」へ──自己決定で受験を根本から変える

はじめに:なぜ「やる気」が続かないのか?

「志望校に合格したい」「もっと勉強しなきゃ」と思っているのに、なぜか机に向かう気がしない。

そんな“やる気の空回り”を経験している受験生も多いのではないでしょうか。勉強しなきゃいけないのはわかっているのに、心が動かない──これは「外からの圧力」で無理に動かされようとしている状態です。

では、どうすれば「自分から進んで勉強する」状態を作れるのか?

そのヒントとなるのが、心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱された**自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)**です。


自己決定理論とは?──人が本当に動くとき

自己決定理論は、「人は自分で選び、意味を見出したときに、最も深く動機づけられる」という考えに基づいた理論です。

この理論では、人間の動機(モチベーション)を次のように分類しています:

外発的動機づけ(Extrinsic Motivation)

  • 強制型:「親に怒られるから勉強する」
  • 報酬型:「ご褒美があるから頑張る」
  • 評価型:「褒められる/良い成績を取るため」
  • 義務型:「やるべきだからやる」

内発的動機づけ(Intrinsic Motivation)

  • 探究型:「この問題、面白い!」
  • 挑戦型:「もっとレベルを上げたい」
  • 意味志向型:「自分の目標に近づく実感がある」

外発的動機も一時的には力になりますが、それだけに頼っていると疲弊します。本当に学び続けられるのは、「内発的動機」があるときなのです。


自己決定理論の3つの基本欲求

自己決定理論では、人が内発的に動機づけられるためには、次の3つの「心理的基本欲求」が満たされている必要があると考えられています:

① 自律性(Autonomy)

「自分で選んでいる」と感じられること。

例:

  • 自分で参考書を選ぶ
  • 勉強の順番を決める
  • 目標や計画を自分で立てる

強制されると人は反発しますが、「自分で選んでいる」と感じられると、その行動に価値を見出せるようになります。

② 有能感(Competence)

「できるようになっている」と感じられること。

例:

  • 過去問の正答率が上がった
  • 苦手分野を克服できた
  • 先生に褒められた

小さな成功体験の積み重ねが、自己効力感を育てます。

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③ 関係性(Relatedness)

「誰かとつながっている」と感じられること。

例:

  • 一緒に頑張る友達がいる
  • 応援してくれる家族や先生がいる
  • 質問を親身に聞いてくれる存在がいる

孤独な学びは持続しにくく、他者との関係がモチベーションを支える大きな土台になります。

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「やらされ感」の正体──受験生が陥りがちな3つの罠

自己決定理論の観点から見ると、多くの受験生がモチベーションを失うのには理由があります。

罠①:親や先生の期待に押しつぶされる

自律性が奪われる

「勉強しなさい」と言われ続けると、勉強が「自分のもの」でなくなり、やらされ感に変わります。

罠②:成績や偏差値だけに一喜一憂する

有能感が不安定になる

一時的な成果だけに頼ると、結果が悪かったときに「自分には向いてない」と思い込んでしまいます。

罠③:孤独に頑張り続ける

関係性が不足する

一人で抱え込んでしまうと、相談や共感の機会が減り、心が折れやすくなります。


自己決定理論を活かす:勉強に意味と力を与える5つの戦略

では、受験生がこの理論をどう活かせばよいのか? 実践的な方法を紹介します。

1. 「自分で決めた」感覚を大切にする(自律性)

  • 自分で毎日の勉強スケジュールを作ってみる
  • 目標設定は「~しなきゃ」より「~したい」形式で
  • 「選べる」選択肢を持つ(複数の参考書から選ぶなど)

2. 「できた」を可視化する(有能感)

  • 学習記録やチェックリストを活用
  • 小テストや確認問題での成功体験を積む
  • 「できたこと」を毎晩書き出す習慣をつける

3. 誰かと学ぶ・話す(関係性)

  • 週に1回、学習報告会をする(親や友達、コーチと)
  • 勉強仲間とZoom自習室などを活用
  • コーチングやメンタリングを受ける

4. 勉強の「意味」を問い直す

  • なぜこの学校を目指すのか?を言語化する
  • 「将来どうなりたいか」と学びを接続する
  • 「なぜ勉強するのか」を自分の言葉で語れるようにする

5. 内発的動機を引き出す環境をつくる

  • 成績以外の努力も認めてくれる大人と関わる
  • ご褒美は行動に対して与える(例:毎日勉強できたら漫画OK)
  • やる気が出る「場所」や「音楽」など環境も整える

最後に:あなたの学びは、あなたのもの

受験というのは、結果が出るまでに時間がかかります。だからこそ、「自分がなぜこれをやっているのか」という意味が見えないと、途中で心が折れてしまいがちです。

他人の期待ではなく、自分の意志で選び、自分なりの意味を見出し、自分の成長を実感できる──それが「内発的動機づけ」に基づいた学びの形です。

あなたの学びは、あなた自身のものであってほしい。

自己決定理論は、その「自分軸」を育ててくれる強力なヒントになります。