「何が向いているかわからない君へ」―SEDAモデルでキャリアを創る思考法―


はじめに:キャリアは「見つける」ものではなく「創る」もの

「将来何がしたいかわからない…」
「進路を決めるって、どうすればいいの?」
「夢なんてないけど、このままで大丈夫かな…」

受験生の中には、こんな悩みを抱えている人が少なくありません。勉強する理由がはっきりしないと、モチベーションが続かないものです。

しかし、安心してください。
そもそも、明確な夢を持って進む人のほうが珍しいのです。ほとんどの人は、模索しながら、自分のキャリアを“創って”いきます。

ここで紹介するのが、東京大学の延岡健太郎教授が提唱した「SEDAモデル」。
このモデルは、研究開発やイノベーションの現場で使われる思考フレームですが、実は**「進路に悩む受験生」にとっても非常に役立つ自己理解ツール**になります。


SEDAモデルとは?──4つの思考モードで進路を切り拓く

SEDAとは、以下の4つの頭文字を取ったものです。

項目説明
S:Science事実を正しく見て、原理を理解する思考(論理・客観)
E:Engineering問題を構造的に整理し、改善する思考(設計・仕組み)
D:Design理想を描き、意味や価値を見出す思考(ビジョン・創造)
A:Art直感や感性を信じ、表現しようとする思考(感情・美)

この4つは、単なる「性格診断」ではありません。
**「思考の切り口」であり、キャリア選択における自分の“得意な問いの立て方”“やりがいを感じやすいアプローチ”**を知るためのものです。

【SEDAモデルの4象限マトリクス】

縦軸:問題発見 ⇔ 問題解決

横軸:意味的価値 ⇔ 機能的価値

意味的価値(Why/What)理念・目的・意味機能的価値(How)仕組み・効率・再現性
問題発見
(What is the problem?)
Design(構想・ビジョン)
理想や未来像を描く
問い:「何を創るべきか?」
例:教育を根本から問い直す社会起業家
Science(分析・探究)
現状を観察し、構造を理解する
問い:「本当の問題は何か?」
例:社会課題の因果関係を解明する研究者
問題解決
(How to solve it?)
Art(表現・実践)
感性で価値を創出し、世の中に訴える
問い:「どう届けるか?」
例:世界を変える映画を創る
Engineering(設計・構築)
問題に対して手段を具体化する
問い:「どう実現するか?」
例:仕組みで問題を解決するIT起業家

君はどの思考モードが強い?──自己理解の第一歩

それぞれのモードには、得意な行動・苦手な行動、そして適した職業傾向があります。まずは、各モードの特徴を以下のチェックリストで見てみましょう。

Science(サイエンス)タイプ

  • 「なぜ?」「どうして?」とよく考える
  • データや因果関係に強い関心がある
  • 検証や実験が好き
  • ルールに従うのが得意
  • 論理的に考えることが好き

★向いている学問分野・職業:物理、数学、医学、経済学、研究職、アナリストなど


Engineering(エンジニアリング)タイプ

  • 問題を見つけて、改善するのが好き
  • 効率を考えるのが得意
  • 構造や仕組みに関心がある
  • 計画的に物事を進めるのが得意
  • 「使える知識」を重視する

★向いている学問分野・職業:工学、建築、情報科学、経営、プロジェクトマネージャーなど


Design(デザイン)タイプ

  • 「こうだったらいいのに」と理想を描く
  • コンセプトや意味づけに関心がある
  • 新しいものを創りたい気持ちが強い
  • 世界観やストーリーを考えるのが得意
  • 感性と論理をつなげたいタイプ

★向いている学問分野・職業:デザイン、社会起業、ブランド戦略、企画職など


Art(アート)タイプ

  • 表現したい衝動がある
  • 言語化できない感情を抱えることが多い
  • 芸術や文化に強い関心がある
  • 人と違う自分を大事にしたい
  • 好き嫌いがはっきりしている

★向いている学問分野・職業:芸術、文芸、映画、音楽、演劇、ライターなど


SEDAをどう使う?──キャリア発見の4ステップ

では、受験生がこのSEDAモデルをどのように使えばよいのでしょうか?
以下の4ステップを使えば、進路選択のモヤモヤが少しずつ晴れていきます。


【STEP1】まずは「現在地」を知る(自己理解)

・今、自分はどのモードが得意だと感じるか?
・何をしているときにワクワクするか?
・逆に、どんな作業が苦痛に感じるか?

SEDAを使えば、「好きな教科」や「得意なこと」が、どんな思考モードに支えられているかが見えてきます。


【STEP2】「問いのクセ」を見抜く(思考習慣)

たとえば、模試の結果が悪かったとき――

  • Sタイプは「原因」を分析する
  • Eタイプは「勉強法の構造」を見直す
  • Dタイプは「将来像とのズレ」を感じ取る
  • Aタイプは「自分の感情」を整理しようとする

つまり、同じ出来事でも、モードによって「反応」が違うのです。
この違いを自覚することで、「自分はどういう問い方で世界と向き合っているか」がわかってきます。


【STEP3】「多モード思考」に切り替える(キャリア創造)

SEDAは「1つの型にハマる」のではなく、状況に応じて使い分けるのが理想です。

例:ある職業を考えるとき

  • S:その職業に関する事実やデータを調べる
  • E:その仕事の課題や改善点を知る
  • D:その仕事を通じて何を実現できるかを描く
  • A:その仕事に対して、自分の心はどう動くかを感じる

こうすることで、思いつきでもなく、思い込みでもないキャリアの構想ができるようになります。


【STEP4】自分の問いを軸に「仮のキャリア像」を描く

最後に、自分のSEDAタイプをベースに、「仮のキャリア像」をつくってみましょう。

例)Science×Engineering型

→ 研究データを基に教育を改善する教育工学者

例)Design×Art型

→ 自分の世界観を届けるWebデザイナー・映像作家

例)Engineering×Design型

→ 社会課題を解決するソーシャルビジネス起業家

重要なのは、「ひとつに決めきること」ではなく、
複数の仮説を持って、それを“動きながら試す”ことです。


受験勉強とSEDA:なぜ今、知っておくべきか?

SEDAは、大学に入ってからもずっと使える「思考のOS」です。
たとえば:

  • 文理選択に迷ったとき → 思考のクセから判断
  • 学部を決めるとき → モードに合う学問を探す
  • 就職活動の自己分析 → 思考パターンから適職を知る

今この時点で「SEDAモードの自覚」があれば、勉強の目的や選択肢に“意味”が生まれるのです。


おわりに:キャリアは「正解」ではなく「創造」

SEDAモデルは、職業診断ツールではありません。
あなたの中にある「問いの芽」に、名前を与えるものです。

だからこそ、最初から「何になりたいか」を決められなくても大丈夫。
あなたが何を見て、どう問い、どう動き、どう創るのか。

そのプロセス全体が、あなたのキャリアそのものになります。


🔖まとめ:受験生のためのSEDAモデル活用法

  • Sで現実を知り、
  • Eで戦略を立て、
  • Dでビジョンを描き、
  • Aで心を確かめる。

この4つの視点を持てるだけで、勉強の意味も、進路の不安も、大きく変わるはずです。