状況的リーダーシップ理論──受験生に最適な「コーチ」の選び方とは?

はじめに:「いい先生」ってどんな人?

受験勉強をしていると、誰もが一度はこう思ったことがあるはずです。

  • 「自分に合う先生がいれば、もっと頑張れるのに」
  • 「今の先生は厳しすぎて、相談しにくい…」
  • 「どうすれば、誰かの学びを助けられる存在になれるのか?」

この問いに対するヒントをくれるのが、**状況的リーダーシップ理論(Situational Leadership Theory)**です。

この理論は、「相手の成熟度(やる気・能力)に応じて、リーダー(=コーチ)の関わり方を変えるべき」という考え方に基づいています。これは教育やコーチングの現場において、極めて実用性の高い視点です。

本記事では、状況的リーダーシップ理論の基本を説明したうえで、「受験生の状況別に最適なコーチのスタイル」を解説していきます。あなた自身が受ける立場でも、支える立場でも役立つ内容です。


状況的リーダーシップ理論とは?

状況的リーダーシップ理論は、ポール・ハーシーとケン・ブランチャードによって提唱された理論で、「人に応じてリーダーシップスタイルを柔軟に変える」ことの重要性を説いています。

2軸で考える

この理論では、次の2軸で考えます:

  • 指示的行動(Directive Behavior):具体的に何をどうすべきかを伝える度合い
  • 支援的行動(Supportive Behavior):心理的な支えや対話、励ましの度合い

これをもとに、以下の4つのリーダーシップスタイルに分類されます:

スタイル指示支援説明
S1:教示型(指示型)高い低い明確なやり方を伝え、手取り足取り教える
S2:説得型(コーチ型)高い高い教えつつ、対話しながら動機づけも行う
S3:参加型(支援型)低い高い受験生の主体性を尊重し、対話重視
S4:委任型(任せ型)低い低い自立を重視し、見守る姿勢

受験生の「成熟度」4段階──あなたは今、どの段階?

では、どのスタイルを使うべきかは何で決まるのでしょうか?

それは、「受験生の成熟度(=やる気×能力)」によって変わります。ハーシーとブランチャードは以下のように4段階に分類しています。

成熟度やる気能力特徴
M1低い低いやる気も能力も不十分。始めたばかり。
M2高い低い意欲はあるが、勉強法が分からない。
M3低い高い実力はあるが、迷いや自信喪失がある。
M4高い高い自律的に学び、自己調整もできる。

【段階別】受験生にとって最適な「コーチ像」

ここからは、状況的リーダーシップ理論をベースに、受験生の成熟度ごとに「どんなコーチが理想か?」を具体的に紹介します。


【M1:やる気も能力も低い】初心者の受験生

特徴

  • 何から始めたらいいか分からない
  • 勉強習慣がまだない
  • 失敗体験が多く、自己否定しやすい

最適なコーチ像(S1:教示型)

  • 毎日の勉強スケジュールを具体的に提示
  • 問題集の解き方、間違いの直し方まで明示
  • 「まずはやってみよう」と背中を押す

NG対応

  • 自由にやらせすぎる(放任)
  • 感情論で励ましすぎる(本人は混乱する)

【M2:意欲はあるが能力不足】やる気はある成長期

特徴

  • やる気はあるが、成果が出にくい
  • 「頑張ってるのに伸びない」が口癖
  • 自己効力感が不安定

最適なコーチ像(S2:説得型)

  • 学習法や復習の仕方を一緒に考える
  • 努力の方向性を修正してあげる
  • 成果が出ない不安を共有し、言語化する

効果的な声かけ例

  • 「今のやり方、ちょっと変えてみようか」
  • 「この方法で3週間やってみて、振り返ろう」

【M3:能力はあるがやる気が落ちている】スランプ期の受験生

特徴

  • 模試で結果が出ず、落ち込んでいる
  • 「もう無理かも」と諦めモード
  • 他人と比べて自己否定が強くなる

最適なコーチ像(S3:参加型)

  • 対話を重視し、「なぜ頑張ってきたか」を一緒に振り返る
  • 一方的にアドバイスせず、思いを聞く
  • 再びモチベーションを取り戻せるよう支援

有効な関わり方

  • コーチが過去の失敗体験を語る
  • 自分の価値や努力を再認識させる

【M4:やる気も能力も高い】自立型の受験生

特徴

  • すでに学習習慣があり、自己調整も可能
  • 志望校も明確
  • 逆に「干渉されるとやる気が削がれる」

最適なコーチ像(S4:委任型)

  • 基本は信頼して任せる
  • 定期的に「壁打ち」のような相談相手になる
  • プレッシャーではなく、励ましで支える

関わりの工夫

  • 学習記録のレビューだけ行い、口出しは最小限
  • 本人からの相談を大切にする

どの受験生にも共通すること:「今の状況」に寄り添えるコーチが最強

リーダーやコーチの役割は、「常に正解を持っていること」ではありません。むしろ、

「いまのその人にとって、最も力になる関わり方」を選べること

が重要です。

そしてこの関わり方は、受験生の成長によって変化します。

  • 初めはS1のように丁寧に教える
  • 途中でS2のように一緒に考える
  • スランプにはS3で寄り添い
  • 最終的にはS4で信じて任せる

このように、コーチもまた「状況に応じて変化し続ける存在」なのです。

理想のコーチは、ずばり山本五十六

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」

この有名な言葉を残したのが、第二次世界大戦時の連合艦隊司令長官としても知られる**山本五十六(やまもと・いそろく)**です。

彼は最高司令官として真珠湾攻撃などを指揮するほど現場のことを理解している上で、日本の全体的な戦略の無理には懸念を持つなど、戦略的に全体を俯瞰して判断できる「希少なバランス感覚」を持った将軍でした。彼が日本軍のトップに立つことができたのは、そのバランス感覚が大いに影響していたはずです。

そんな彼の指導スタイルは、まさに状況的リーダーシップ理論のS1〜S4すべてを含んだ柔軟なリーダー像そのものだといえます。

やってみせ(S1:教示型)

何をすればよいか分からない部下には、自らが模範となって動いて見せる。
これは、受験においても「やる気も能力も低い段階(M1)」の生徒にとって、最も必要なリーダーシップです。

例:先生やコーチが実際にノートの取り方、問題の解き方を「やって見せる」こと。

言って聞かせて(S2:説得型)

動機はあっても、方法を知らない相手には、言葉で丁寧に伝える必要があります。
五十六は、若い兵士に対して「なぜそれをするのか」まで含めて説明し、納得を促しました。

例:なぜその復習法が有効なのかを説明して、受験生の納得を得るような対応。

させてみて(S3:参加型)

ある程度の力がついてきた段階では、「やらせてみる」ことが重要になります。
五十六は部下に一任し、結果を見守る姿勢を大切にしていたと言われます。

例:計画作成や教材選びを一部受験生に委ね、自分で考えさせる。

ほめてやらねば(S3〜S4:支援型・委任型)

失敗の中にも良かった点を見つけ、成長に目を向けて評価する――
これが、スランプを抜け出す受験生や自立型の生徒を育てる際のキーポイントです。

例:ミスをしたときでも「この考え方は良かったね」と承認する。


なぜ山本五十六は「教育者」的だったのか?

山本五十六の言葉が今も教育現場や企業研修で引用され続けるのは、彼の指導が単なる軍事的命令ではなく、「人を育てること」に根ざしていたからです。

彼は次のようにも述べています。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

これはまさに、状況的リーダーシップの核心です。

  • 指示するだけでは育たない
  • 信頼して任せることが、相手の自律を促す

受験生自身が「自分の状況」を知ることも、成長の第一歩

そしてもう一つ大事なことがあります。

それは、受験生自身が「自分が今どの段階か」を自覚することです。

  • 「最近、何をすればいいか分からない(M1)」なら、先生に具体的に聞こう
  • 「頑張ってるのに伸びない(M2)」なら、やり方を一緒に見直そう
  • 「やる気が続かない(M3)」なら、なぜ目指しているのかを再確認しよう
  • 「一人でやれるけど不安(M4)」なら、相談できる人を持っておこう

まとめ:良いコーチとは、「変われる」コーチ

状況的リーダーシップ理論は、受験生にもコーチにも共通して「柔軟性」の大切さを教えてくれます。

  • 「コーチが変わってくれたから、自分も変われた」
  • 「自分の状況に気づけたから、適切な支援を求められた」

そんなふうに、学びの場ではお互いが成長しあうことができます。

受験という孤独な戦いにおいて、支えてくれる存在は何よりの武器です。そして、あなた自身もまた、誰かにとっての「コーチ」になれるかもしれません。