なぜ受験生は「問題を解決しようとしない」のか?―理由と、その乗り越え方―

目次
はじめに:「わかってるけど、できない」の正体
受験生の多くが一度はこうつぶやいたことがあるのではないでしょうか。
「やらなきゃいけないのは、わかってる。でも…できない」
この「わかってるのにやらない/できない」状態は、単なる怠惰ではありません。実はこの背景には、人間の行動メカニズムと心理的なバイアス、そして自尊心の保護戦略が絡み合っています。
この記事では、「なぜ人は問題があるとわかっていながら、それを解決しようとしないのか?」という問いに、心理学と行動科学の視点から答えていきます。
問題は「解決されない方がラク」だから
そもそも、私たちは無意識に“解決しない”ことを選ぶことがあります。
たとえば、
- 苦手な数学の問題集を見ないようにする
- 模試の結果を開かずに机にしまう
- 志望校の情報収集を後回しにする
こうした行動の裏には、「現実を直視すると自己評価が下がってしまうかもしれない」という防衛本能があります。
◉「現実に向き合う=自分の未熟さと向き合う」こと
問題に向き合うとは、自分の弱点・課題・失敗と向き合うことでもあります。それは、プライドが傷つくし、自己否定に近い感覚すら伴うこともある。
だからこそ、「問題解決」ではなく「問題回避」を選ぶのです。これは「現状維持バイアス」と呼ばれ、人は基本的に理想の自分を実現するためではなく現状の自分を維持することに強いモチベーションを発揮します。

「悩む=考えている」と錯覚する
受験生の多くは、悩んでいる時間を「考えている時間」と勘違いしています。
たとえば:
- 「このままで大丈夫かな…」と1時間考え込む
- 「どこから手をつけるべきか」とノートを眺める
これらは“考えている”ようで、実際には何も前進していません。これは心理学でいう**「反すう思考」**であり、脳は「考えたつもり」になって満足してしまうのです。
◉考えることと、前に進むことは違う
本当の「考える」は、次のようなプロセスを含みます。
- 問題を具体化する(例:英語長文が遅いのはなぜか?)
- 原因を仮説化する(例:語彙力不足か精読力の問題か)
- 解決策を立案し、行動する(例:1日5単語覚える習慣を入れる)
この3ステップがなければ、「思考」は単なる足踏みにすぎません。
問題は「大きく、あいまい」だと無視される
行動科学の研究では、「人は“大きすぎる課題”を前にすると、無意識にそれを見なかったことにする傾向がある」と言われています。
- 「全然点数が足りない。何からやればいいのかすらわからない」
- 「そもそも自分に才能がないのでは?」
このような漠然とした不安や劣等感は、脳にとって非常に処理が難しい。だからこそ、私たちは次のような行動に逃げがちになります。
- SNSで現実逃避
- 気休めに勉強系動画を見る
- 過去の自分の成功体験にすがる
問題が「大きく、あいまい」であればあるほど、人は向き合わずに逃げたくなるのです。
実は「解決策がわからない」から動けない
もう1つ重要なのは、**問題を解決したいけど「どうすればいいかわからない」**という状態です。
受験勉強は「勉強の仕方を学ぶことから始める」必要がありますが、それを誰も教えてくれない場合、自分で試行錯誤するしかありません。
たとえば:
- 効率的な復習のやり方がわからない
- 目標と現在地のギャップがわからない
- 計画の立て方や修正の仕方がわからない
この「方法の不明確さ」こそが、問題解決を遠ざけている大きな要因なのです。
自信がないと、人は動けない
そして最後にして最大の理由です。
特に重要となってくるのは、「どうせ自分なんてできない」「やっても無駄かも」といった自己効力感の低さです。
◉自己効力感とは?
心理学者バンデューラは、「自己効力感(self-efficacy)」を「自分にはそれを達成できるという信念」と定義しました。
自己効力感が高い人ほど:
- 失敗をしても立ち直りが早い
- 課題を前向きにとらえる
- 行動→成功→自信 という好循環を回せる
反対に、自己効力感が低いと「やる前からあきらめる」傾向が強くなります。
では、どうすれば「問題を解決する人」になれるか?
ここまで、「なぜ行動できないのか」を見てきました。
では、どうすれば“問題を直視し、解決し、行動する受験生”になれるのでしょうか?
まず重要なのは、問題を“構造化”して考えることです。
【問題解決の5ステップ】
- 問題を具体化する:「なんとなく不安」を「英語長文が時間内に読み切れない」などに明確化
- 原因を仮説化する:「語彙力?スラッシュリーディング不足?」など複数の可能性を挙げる
- 小さな行動に落とす:1日1パッセージ読む、1日5単語覚えるなど行動レベルに分解
- 実行する:実際に動く
- 検証と修正:やってみてうまくいかなければ微調整
これを何度も繰り返すことが、学力の土台となります。
そして、次に重要なのが、戦略的に「自信」を付けることです。
【戦略的な自信の醸成】
一言で自信といっても、いくつかの種類があります。
なんとなく感じる自信の無さが、特にどの自己~~感が無いことによるものなのかを整理してみることで、自分に足りないものがわかりやすく可視化されます。
【感情に寄り添う】
ここまでやや論理的な内容について中心的にまとめてきましたが、それと同様に感情も大事です。
人の行動の大部分は感情によるものであるため、感情を無視することは効果的な解決にはつながりません。
感情を理解・解釈し、適切に対処することが求められます。
ただ、感情に関しては、感情を重視する人含め、適切に理解されていないのが現状です。
例えば、「怒り」という感情は心理学的には二次感情と呼ばれます。
「不安」のような一次感情が芽生えた際に、その感情のまま脳内で処理するのは難しいため、比較的処理が簡単な「怒り」などの二次感情に置き換わるのです。
こうした感情の構造を理解をしていないと、「怒り」の底にある一次感情を見逃して、間違った対応をしてしまうリスクは依然高いままとなります。
区分 | 定義 | 特徴 | 例 |
---|---|---|---|
一次感情(Primary emotions) | 人間に生得的に備わっている基本的な感情。すべての文化に共通して見られる | 即時的・反射的、短期的で、表情や身体反応と連動 | 恐怖、悲しみ、喜び、怒り、驚き、嫌悪など |
二次感情(Secondary emotions) | 一次感情に対する評価・意味づけを通して生じる感情。発達や学習により形成される | 文脈依存的・複雑・持続的で、自己や社会との関係が影響 | 恥、罪悪感、誇り、嫉妬、羨望、屈辱、安心、怒り(多くの場合)など |
問題の解決方法に関しては、以下記事をご参照ください。
おわりに:「問題解決力」は未来にも役立つ
受験における問題解決力は、実は一生モノです。
社会に出ても、「課題を特定し、原因を見つけ、解決策を考え、行動する」ことは、すべての仕事に通じます。学力だけでなく、生きる力そのものなのです。
「問題に向き合うのが怖い」「うまくいかないのが嫌だ」「行動して失敗するくらいなら、何もしない方がいい」
――そう思うのは、あなたが弱いからではなく、「人間だから」です。
でも、そんな“人間的なあなた”が、一歩踏み出し、「問題を解決しようとする存在」に変わったとき未来を変える確率は大きく高まるはずです。