なぜいつまでも単語帳をやり続けるのか?ブルームのタキソノミーで紐解く
目次
はじめに:あなたはなぜ今日も単語帳を取り組むのか
「単語帳まではできる。そろそろ長文演習もやらないといけないのに、また単語帳をやってしまう。」
これは受験生に限らず、多くの学習者に共通する悩みではないでしょうか。
しかも厄介なのは、本人もわかっていることです。
「そろそろ長文をやらないといけない」
「単語ばかりやっても意味がないかもしれない」
それでも、今日も単語帳を開いてしまう。
これは甘えでも、意志の弱さでもありません。
実はこの問題、教育学で古くから使われている「ブルームのタキソノミー」という理論で、非常にきれいに説明できます。
結論を先に言うと、単語帳と長文演習は、同じ“英語学習”であっても、求められている学習段階がまったく違うのです。
まずは、その理論の土台から確認していきましょう。
ブルームのタキソノミーとは何か
タキソノミーとは、1956年に教育心理学者のブルームが提唱した、学習を「どれだけ深く使えているか」で階層的に整理した枠組みです。
代表的には、次の6段階で説明されます。
- 記憶(Remember):事実や用語を思い出す
- 理解(Understand):意味や内容を説明できる
- 適用(Apply):知識を使って問題を解く
- 分析(Analyze):構造や関係性を捉える
- 評価(Evaluate):妥当性を判断する
- 創造(Create):新しい解を生み出す
学習とは本来、「記憶 → 理解 → 適用 → 分析…」と、段階を踏んで深まっていくものです。
この階段構造を頭に入れたうえで、
次に「単語帳」が、どこを担当しているのかを見てみます。
単語帳がやっていること(=ブルームでいう「記憶」)
単語帳は思い出せるかどうか(記憶)を確認する学習です。
単語帳を使っているとき、
あなたの脳の中では、実際にどんな処理が起きているでしょうか。
多くの場合、次の流れです。
単語帳で起きている認知処理
- 単語を見る
- 日本語の意味を思い出す
- 合っているか/間違っているかを判断する
たとえば、
- run→走る
- important→重要な
このとき脳がやっているのは、
「単語と意味の1対1対応を引き出す」という処理です。
これはブルームのタキソノミーで言うと、
ほぼ100%「記憶(Remember)」に該当します。
単語帳学習の特徴を整理すると
- 文脈:ほぼない
- 判断基準:正しいかどうか
- 情報量:1語だけ
- 成功率:高い
- フィードバック:即時
そのため、「ちゃんと勉強している感覚」が非常に強くなります。
ここまでは、何も間違っていません。
単語帳は、記憶フェーズとして極めて優秀な教材ですし、単語を学習しないと次の段階に進んでも効率がとても悪いです。
長文演習が要求すること(=「適用」以降)
では次に、長文演習に入った瞬間、
脳に何が起きているのかを見てみましょう。
長文は、単語以外も含めた、知識を“使わせる”学習です。
例文
The policy was introduced to address the issue that had long been neglected.
この1文を読むだけで、脳は次の処理を同時に要求されます。
- 単語を思い出す(記憶)
- 文の構造を取る(理解)
- 因果関係を整理する(分析)
- 設問条件に当てはめる(適用)
つまり長文演習とは、「記憶 → 理解 → 適用 → 分析」を一気に要求する課題です。
単語帳との決定的な違い
- 単語帳:
「意味を知っているか?」 - 長文演習:
「意味を使って、関係を処理できるか?」
この瞬間、学習の段階が一気に2〜3段、飛ばされることになります。
ギャップ①:処理の「量」が違う
長文は、同時に扱う情報が膨大です。
単語帳の場合
- 情報:1語
- 処理対象:1点
- 注意:集中しやすい
長文の場合
- 情報:複数語・複数文
- 処理対象:関係性・構造
- 注意:分散する
ワーキングメモリの消費量が一気に跳ね上がるため、
「単語は知っているのに、読めない」
という現象が起きます。
これは矛盾でも能力不足でもなく、
脳の仕様通りの反応です。
ギャップ②:処理の「質」が違う
単語帳は再生、長文は操作です。
単語帳の成功条件
- 思い出せた → OK
長文の成功条件
- 思い出す
- 組み合わせる
- 取捨選択する
- 文脈に合わせて意味を切り替える
たとえば run という単語。
- run a company
- run out of time
- run through the plan
単語帳では「走る」と覚えていても、
長文では意味を切り替える操作が必要になります。
これが、ブルームでいう「適用(Apply)」です。
ギャップ③:失敗体験の重さ(現状維持バイアス)
問いへの短い答え:長文は、失敗のダメージが重い。
単語帳の失敗
- 原因が明確:「覚えていなかった」
- 修正が簡単:「もう一回見る」
長文の失敗
- 原因が不明確
- どこが悪いかわからない
- 修正方法が見えない
脳は無意識にこう判断します。
- 「長文はコスパが悪い」
- 「単語帳は安全」
この無意識の思い込みのことを生存者バイアスと呼びます。
これが、
「わかっているのに、長文に進めない」
という行動を生みます。
ギャップを埋めるためには「間に何かが必要」になる
これらの問題を解決するために、
単語帳(記憶)と長文(適用・分析)の間には、
本来、次のステップが必要です。
- 単語
- 短文
- 構造が単純な段落
- 条件付き読解
ブルームのタキソノミーで言えば、
- 記憶
- 理解
- 小さな適用
- 部分的分析
を順番に踏ませる設計です。
この階段がない限り、
人は無意識レベルで、本能的に単語帳に戻ります。
例えば、英語で言えば、構文と呼ばれるものが間のステップにあたります。
1文を読むというステップを踏んでその段階を完璧にすることで、
長文演習をする際に感じる壁をなるべく低くすることができるのです。
まとめ・展望
まとめると、次の3点です。
- 単語帳は「記憶」を鍛える優秀な教材
- 長文演習は「適用・分析」を同時に要求する
- 両者の間には、認知的な断絶がある
だから必要なのは、努力量ではなく、移行設計です。
AI時代の学習では、
「どれだけやるか」よりも
「どう段階をつなぐか」が成果を左右します。
今日からは、「単語帳の次に何を置くか」を、意識してみてください。

